2012/04/26

お知らせ

このブログのアドレスを見ての通り、ブログタイトルを何度か修正してきましたが、アドレスはリンクされているページがあるために変更できずにいました。

そこで、2012/04/26から新たにタイトルをBirondaLabと改め、アドレスもhttp://birondalab.blogspot.jp/に変更することに決めました。特に連続して購読している人はいないと思いますが、念のためここに書いておきます。なお、このアドレスでも時たま更新する予定です。

2012/04/21

量子化学ノート(8)

8 [1]続・LCAO近似

8.1 S=重なり積分

前回得たSはψ1*ψ2を積分したものだった。これをそれぞれの位置についてグラフにすると次のようになる。
これを見て分かるように核間距離Rが大きくなるとSは0に近くなり、Rが小さいときは規格化されているので1に近くなる。(ただし上の図は拡大しているので若干異なる)

8.2 水素分子イオン

水素分子イオンの軌道を書いてみよう。ここではHuckel近似を適用してS=0とおく。
*Huckel近似は要するに違う原子間のS=0とすること。同じ原子は1
つまり
ψ=1/√2 (ψ1+ψ2)
とする。
もちろん、もう一つの方は節面ができている。これはその面での確率がゼロということを意味する。

8.3 等核二原子分子

まずは図を用いて感覚的に考えてみる。上に述べたように、2つの軌道から節面が中心にない(和の)軌道と、中心にある(差の)軌道の2つが形成される。それぞれエネルギーは前者が前より小さく、後者が前より大きくなる。
このことをよく以下のような図で表す。上の軌道を反結合性軌道、下を結合性軌道という
このような図を書く上での規則を以下に述べる

  1. 分子を構成する2個の原子のそれぞれ1つの軌道から2個の分子軌道ができる
  2. 原子軌道のエネルギーが近いもの同士が相互作用をして分子軌道を形成する
  3. 対称性が同じ軌道同士が相互作用をする
    • 例:2pzと2pxはダメだが2pzと2pz同士ならば良い
  4. 原子軌道の空間的重なりが大きければより結合性軌道は安定に、判決合成軌道は不安定になる
また、分子軌道の性質を分類するために以下の記号を利用する
  • 分子軸に対して回転対称なものをσ結合と呼ぶ.
  • そうでないのをπ結合と呼ぶ
  • 分子の中心について180°回転させて符号が変わらないものをg、変わるものをuと添え字で書く
  1. sとs:球の形をしており、それらを足し合わせたものは回転対称性あり
  2. pとp:pz+pzは結合軸に対して回転対称性あり。よってsと同様な動きをする。px+pxは回転対称性なしなのでπ結合
[1]電磁気のノートより長くなりそうだというのはいったいどういうことだ。

量子化学ノート(7)

7 LCAO近似

核が複数ある場合のSchrodinger方程式の解について考える。

7.1 LCAO近似

今後使うLCAO=Liner Combnation of Atomic Orbitals近似を用いて考える。今考えるのは水素分子イオンで、水素分子から電子を一つ奪ったものである。

水素分子イオンの波動関数は、2つの極端な状態を適当な定数で線形結合したものと考えられる。(つまり、水素原子に水素イオンがくっついている状態の線形結合)
これより、
\psi=c_1\psi_1+c_2\psi_2
とおいて問題を考えてみよう。

7.2 変分法

一般に
\hat{H}\psi_0=E_0\psi_0
について、
E=\frac{\int_{-\infty}^{\infty}\psi_0^*\hat{H}\psi_0\mathrm{d}\tau}{\int_{-\infty}^{\infty}\psi_0*\psi_{0}\mathrm{d}\tau}
とかけるが、任意の関数ψについて
E=\frac{\int_{-\infty}^{\infty}\psi^*\hat{H}\psi\mathrm{d}\tau}{\int_{-\infty}^{\infty}\psi*\psi\mathrm{d}\tau}
を考えると
E\geq E_0
となることが知られている。このことから、先ほどの線形結合を使って

  1. エネルギーを求める
  2. エネルギーの最小値を与える定数を決定する
  3. 波動関数・エネルギーを求める
という手順で近似解を得よう。

7.3 エネルギーを求める[step1/3]

E=\frac{\int (c_1^*\psi_1^*+c_2^*\psi_2^*)\hat{H}(c_1\psi_1+c_2\psi_2) \mathrm{d}\tau}{\int (c_1^*\psi_1^*+c_2^*\psi_2^*)(c_1\psi_1+c_2\psi_2)  \mathrm{d}\tau}

恐ろしく見えるが、代入しただけだ。
 1 
まず分子を書こう
c_1^*c_1\int\psi_1^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau+c_1^*c_2\int\psi_1^*\hat{H}\psi_2\mathrm{d}\tau+c_2^*c_1\int\psi_2^*\hat{H}\psi_1 \mathrm{d}\tau+c_2^*c_2\int\psi_2^*\hat{H}\psi_2\mathrm{d}\tau
 2 
次は分母
c_1^*c_1\int\psi_1^*\psi_1\mathrm{d}\tau+c_1^*c_2\int\psi_1^*\psi_2\mathrm{d}\tau+c_2^*c_1\int\psi_2^*\psi_1\mathrm{d}\tau+c_2^*c_2\int\psi_2^*\psi_2\mathrm{d}\tau
 3 
あまりに見にくいので省略するための記号を導入する
 3-1 
\int\psi_1^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau=H_{11}
※H「じゅういち」ではない。(AとBにすれば良かったと後悔していたり)
核1,2はどちらも交換可能なので
\int\psi_1^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau=H_{11} =H_{22}=\alpha
と書く。
 3-2 
次に違う核でハミルトニアンをはさんだものも
\int\psi_1^*\hat{H}\psi_2\mathrm{d}\tau(=H_{12})=\int\psi_2^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau(=H_{21})=\beta
と書く
 3-3 
次は、
\int\psi_1^*\psi_2\mathrm{d}\tau=\int\psi_1^*\psi_2\mathrm{d}\tau=1
とおく。
 3-4 
最後に規格化されているので
\int\psi_1^*\psi_1\mathrm{d}\tau=\int\psi_2^*\psi_2\mathrm{d}\tau=1
である。
 4 
代入する。
まず、分子は1つめと4つめの積分がα、残りがβなので、
(c_1^*c_1+c_2^*c_2)\alpha+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)\beta
分母は規格化された部分とSの部分があって
(c_1^*c_1+c_2^*c_2)+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)S
となる。
 5 少し書き換える
これでエネルギーは求まっているが、計算しやすくするため両辺に分母をかけて整理しておく
(c_1^*c_1+c_2^*c_2)E+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)ES=(c_1^*c_1+c_2^*c_2)\alpha+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)\beta

7.4 最小値を与える定数を決める[step2/3]

上の式をc1*,c2*で偏微分する
 1  c1*で偏微分
\frac{\partial E}{\partial c_1^*}=0
となる場所を探すので、Eを偏微分して上記の偏微分が出る項は書かなくていい。つまり、Eもc1*に関係ないとして書けば求める条件式になる
c_1(\alpha-E)+c_2(\beta-ES)=0
 2  c2*で偏微分
先ほどと同じ考えで省略して考えると、
c_1(\beta-ES)+c_2(\alpha-E)=0
となる
 3  有意な解を探す
上の2つの式を連立方程式として解きたいのだが、c1=c2=0ではない解がほしい。つまり、係数行列のdetが0ならば良いので
(\alpha-E)^2-(\beta-ES)^2=0
である。
これを解くと、
E_1=\frac{\alpha+\beta}{1+S}
E_2=\frac{\alpha+\beta}{1-S}
得る(わけがない。下の方のエネルギーはα-βの誤り)

 4  定数を決定する
このEを元の条件式に代入して条件を得る。
代入して式を整理してみると、
c1=c2
となる。これをaとおくと
\psi=a(\psi_1+\psi_2)
となる。規格化をすると、
\int (\psi_1^*+\psi_2^*)(\psi_1+\psi_2)\mathrm{d}\tau=1\\\Rightarrow a^2(2+2S)=1
となり、aは
a=\frac{1}{\sqrt{2(1+S)}}
と書ける。

7.5 波動関数とエネルギーを求める[step3/3]

エネルギーはすでに求まっているので、波動関数を完成させよう。
一つめは
\psi=\frac{1}{\sqrt{2(1+S)}}(\psi_1+\psi_2)
E_1=\frac{\alpha+\beta}{1+S}
もう一つは、
\psi=\frac{1}{\sqrt{2(1-S)}}(\psi_1-\psi_2)
E_2=\frac{\alpha+\beta}{1-S}
である。

更新履歴
21 April 2012 LCAOのスペルミス修正

量子化学ノート(6)

6 多電子原子

水素原子の考えを拡張して原子の構造を考える。この次はもっと複雑な原子が複数つながった分子について考えていく。

6.1 水素類似原子

He+のように、電子が1つしかないイオンを水素類似原子と呼ぶ。これは電子同士の反発がないために水素と同じような手順で計算することができる。具体的には、原子核の電気量がZeとなるので、ボーア半径a0が1/Zとなる。

6.2 独立粒子近似

He原子では電子が2個になるので、電子同士の反発を考慮する必要がある。これを避けるために、He+イオンに電子が一つ追加されたと考える。つまり、核がHe+であるような水素類似「原子」を考える。このとき、残りの一つの感じる場はHe+の電荷、つまり+1eではなく、それよりも大きい1.7e程度になることが分かっている。これは電子によって核の電荷が遮蔽されたと考えていい。この追加された電子が感じる擬似的な「核」の電荷を有効核電荷と呼びZeffと書く。このときも6.1と同様にボーア半径a0を1/Zeff倍したものがその電子の軌道となる。

6.3 構成原理

ここでは、上に述べた原理とは別に、原子に電子が入る規則をいくつか述べる

6.3.1 エネルギー

水素原子の場合は軌道のエネルギーは
1s<2s=2p<3s=3p=3d<...
である。一方で、6.2で述べたように電荷が遮蔽されるなどして
1s<2s<2p<...
と変化する。

6.3.2 スピン

一つの軌道には回転方向が逆の1組の電子が入ることができる。この回転方向は
というように上下の矢印で表す。上向きをαスピンと呼んでスピン量子数sはs=1/2である。下向きはβスピンで、s=-1/2である。

6.3.3 Pauliの排他律

電子は4つの量子数(主量子数n,方位量子数l,磁気量子数m,スピン量子数s)で指定される軌道1つに対して1つしか入らない。これをPauliの排他律という。

6.3.4 Hundの規則

同じエネルギー準位に電子が複数はいる場合はできるだけ異なる軌道に、スピンを平行に入る。

6.4 電子配置

6.3で述べた規則に従って様々な原子の電子配置を考えてみる。
炭素の例を挙げる。2p軌道に2つ、平行に、別々の軌道に入っている。


量子化学ノート(5)

5 水素原子のSchrodinger方程式

5.1 ハミルトニアン

まずはハミルトニアンを書くことになるが、方針としては
H=(原子核の運動エネルギー)+(電子の運動エネルギー)+(ポテンシャル)
となる。しかし、原子核と電子では質量の差が3桁ほどあり、原子核の運動エネルギーは無視しても良いと考える(Born・Oppenheimer近似)。

5.2 変数分離

極座標に変換して
ψ=f(r)g(θ,φ)
と変数分離を行う。ここでは数式処理のAPIの関係もあってこの解が結局は
\psi=R_{n,l}(r)Y_l^m(\theta,\phi)
とかけることを述べるにとどめる。
このYは特に球面調和関数と呼ばれ、電子の軌道の形を決める重要な要素である。

以下にいくつかの例を挙げる
Y_0^0=\sqrt{\frac{1}{4\pi}}
Y_1^0=\sqrt{\frac{1}{4\pi}}\cos\theta
Y_1^{\pm1}=\sqrt{\frac{1}{4\pi}}\sin\theta\exp(\pm i\phi)

5.3 量子数

上に述べた関数は3つの量子数n,l,mによって定まる。
  • nを主量子数と呼び、自然数全体をとる。nは主に軌道のサイズを決める
  • lを方位量子数と呼び、l=0,1,2,...,n-1である。lは主に軌道の形状を決める
  • mを磁気量子数と呼び、m=-l,...,0,...,lである。mは主に軌道の方向を決める

5.4 軌道の名前

n,l,mに対応した軌道を簡単に表すために、以下のように表記する。ここでmは考えない。
  • nはそのまま書く
  • lは数字に合わせて以下のアルファベットを振る。
    • 0から順にs,p,d,f,g,h,i,k
  • nとlのアルファベットを並べて書く
    • 例:n=1,l=0なら1s
    • n=3,l=2なら3p

5.5 軌道の形

5.5.1 s軌道

s軌道はl=0,m=0しかとらない。球面調和関数Yは定数なので、これは回転対称性を持った球の形だと分かる。実際は動径方向の関数Rをみると球の内部で波動関数が0になる節面を持つ。

5.5.2 p軌道

2pz
(ここからはGrapherを使いたいのでMacで執筆するとする。)
l=1,m=0の場合はcosθとあって、φ依存性はない。これはz軸回転対称性があるということで、上の図はxz(もしくはyzでも同じだが)平面での断面を表した。n=2の場合はこれを2pz軌道と呼ぶ

ところで、l=1,m=+/-1の場合は波動関数に虚数が現れる。これは+/-のそれぞれの線形結合をとって適当な定数(虚数でもいい)で割ることで規格化して実数に変換して良い。
この場合も同じような軌道になる。
これらも対称軸をつかって2px,2py軌道と呼ぶ。

3pz

5.5.3 d軌道

d軌道はn=3にならないと出現しない。とりあえず3d軌道についてみてみよう。mは方向を示すといったのでm=0でとりあえず考える。
3dz2
 与えられた関数を切断した断面を描いた。縦がz軸。これは波動関数をz,rで書いてみた時z^2の項が出てくることから3dz^2軌道と呼ぶ。
一方、m=0以外では、また虚数が出てくるため、線形結合を用いて実数に変換する。結果は
3dzx
のようになる。この場合はzxの項があるために3dzxのように呼ばれる。

更新履歴
21 Apr 2011 タイトルがあろう事か「量子力学」だったので修正。