2012/04/21

量子化学ノート(7)

7 LCAO近似

核が複数ある場合のSchrodinger方程式の解について考える。

7.1 LCAO近似

今後使うLCAO=Liner Combnation of Atomic Orbitals近似を用いて考える。今考えるのは水素分子イオンで、水素分子から電子を一つ奪ったものである。

水素分子イオンの波動関数は、2つの極端な状態を適当な定数で線形結合したものと考えられる。(つまり、水素原子に水素イオンがくっついている状態の線形結合)
これより、
\psi=c_1\psi_1+c_2\psi_2
とおいて問題を考えてみよう。

7.2 変分法

一般に
\hat{H}\psi_0=E_0\psi_0
について、
E=\frac{\int_{-\infty}^{\infty}\psi_0^*\hat{H}\psi_0\mathrm{d}\tau}{\int_{-\infty}^{\infty}\psi_0*\psi_{0}\mathrm{d}\tau}
とかけるが、任意の関数ψについて
E=\frac{\int_{-\infty}^{\infty}\psi^*\hat{H}\psi\mathrm{d}\tau}{\int_{-\infty}^{\infty}\psi*\psi\mathrm{d}\tau}
を考えると
E\geq E_0
となることが知られている。このことから、先ほどの線形結合を使って

  1. エネルギーを求める
  2. エネルギーの最小値を与える定数を決定する
  3. 波動関数・エネルギーを求める
という手順で近似解を得よう。

7.3 エネルギーを求める[step1/3]

E=\frac{\int (c_1^*\psi_1^*+c_2^*\psi_2^*)\hat{H}(c_1\psi_1+c_2\psi_2) \mathrm{d}\tau}{\int (c_1^*\psi_1^*+c_2^*\psi_2^*)(c_1\psi_1+c_2\psi_2)  \mathrm{d}\tau}

恐ろしく見えるが、代入しただけだ。
 1 
まず分子を書こう
c_1^*c_1\int\psi_1^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau+c_1^*c_2\int\psi_1^*\hat{H}\psi_2\mathrm{d}\tau+c_2^*c_1\int\psi_2^*\hat{H}\psi_1 \mathrm{d}\tau+c_2^*c_2\int\psi_2^*\hat{H}\psi_2\mathrm{d}\tau
 2 
次は分母
c_1^*c_1\int\psi_1^*\psi_1\mathrm{d}\tau+c_1^*c_2\int\psi_1^*\psi_2\mathrm{d}\tau+c_2^*c_1\int\psi_2^*\psi_1\mathrm{d}\tau+c_2^*c_2\int\psi_2^*\psi_2\mathrm{d}\tau
 3 
あまりに見にくいので省略するための記号を導入する
 3-1 
\int\psi_1^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau=H_{11}
※H「じゅういち」ではない。(AとBにすれば良かったと後悔していたり)
核1,2はどちらも交換可能なので
\int\psi_1^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau=H_{11} =H_{22}=\alpha
と書く。
 3-2 
次に違う核でハミルトニアンをはさんだものも
\int\psi_1^*\hat{H}\psi_2\mathrm{d}\tau(=H_{12})=\int\psi_2^*\hat{H}\psi_1\mathrm{d}\tau(=H_{21})=\beta
と書く
 3-3 
次は、
\int\psi_1^*\psi_2\mathrm{d}\tau=\int\psi_1^*\psi_2\mathrm{d}\tau=1
とおく。
 3-4 
最後に規格化されているので
\int\psi_1^*\psi_1\mathrm{d}\tau=\int\psi_2^*\psi_2\mathrm{d}\tau=1
である。
 4 
代入する。
まず、分子は1つめと4つめの積分がα、残りがβなので、
(c_1^*c_1+c_2^*c_2)\alpha+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)\beta
分母は規格化された部分とSの部分があって
(c_1^*c_1+c_2^*c_2)+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)S
となる。
 5 少し書き換える
これでエネルギーは求まっているが、計算しやすくするため両辺に分母をかけて整理しておく
(c_1^*c_1+c_2^*c_2)E+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)ES=(c_1^*c_1+c_2^*c_2)\alpha+(c_1^*c_2+c_2^*c_1)\beta

7.4 最小値を与える定数を決める[step2/3]

上の式をc1*,c2*で偏微分する
 1  c1*で偏微分
\frac{\partial E}{\partial c_1^*}=0
となる場所を探すので、Eを偏微分して上記の偏微分が出る項は書かなくていい。つまり、Eもc1*に関係ないとして書けば求める条件式になる
c_1(\alpha-E)+c_2(\beta-ES)=0
 2  c2*で偏微分
先ほどと同じ考えで省略して考えると、
c_1(\beta-ES)+c_2(\alpha-E)=0
となる
 3  有意な解を探す
上の2つの式を連立方程式として解きたいのだが、c1=c2=0ではない解がほしい。つまり、係数行列のdetが0ならば良いので
(\alpha-E)^2-(\beta-ES)^2=0
である。
これを解くと、
E_1=\frac{\alpha+\beta}{1+S}
E_2=\frac{\alpha+\beta}{1-S}
得る(わけがない。下の方のエネルギーはα-βの誤り)

 4  定数を決定する
このEを元の条件式に代入して条件を得る。
代入して式を整理してみると、
c1=c2
となる。これをaとおくと
\psi=a(\psi_1+\psi_2)
となる。規格化をすると、
\int (\psi_1^*+\psi_2^*)(\psi_1+\psi_2)\mathrm{d}\tau=1\\\Rightarrow a^2(2+2S)=1
となり、aは
a=\frac{1}{\sqrt{2(1+S)}}
と書ける。

7.5 波動関数とエネルギーを求める[step3/3]

エネルギーはすでに求まっているので、波動関数を完成させよう。
一つめは
\psi=\frac{1}{\sqrt{2(1+S)}}(\psi_1+\psi_2)
E_1=\frac{\alpha+\beta}{1+S}
もう一つは、
\psi=\frac{1}{\sqrt{2(1-S)}}(\psi_1-\psi_2)
E_2=\frac{\alpha+\beta}{1-S}
である。

更新履歴
21 April 2012 LCAOのスペルミス修正

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